トップマインド育成コーチ 山本敦志です
前回に引き続き藤波選手について。
今回は藤波選手とイップスというテーマでお話ししたいと思います。
イップスは極度の緊張状態などによって神経系統のコントロールが利かなくなり運動障害をひきおこすものです。
何らかの原因があり引き起こされると言われています。
脳で言えば、情動を司っている部位、扁桃体や大脳辺縁系の話になります。
これらの情動を司る脳は自らの体を守るために、自分の生命にとってリスクがあることを避けるためにそのリスクを恐怖として記憶しています。
たとえば、いじめられた子供が学校の校門を見るだけでブルブルと震えるような体験がそれに当たります。
いじめられた時の恐怖体験が生命の危機であると記憶するとそれに繋がるものをみるだけで恐怖を感じ事前にそれを察知し避けようとするのです。
ブルブルと震えるというのはこれらの脳の部位は自律神経と繋がっているために交感神経が暴走してしまうというカラクリです。
イップスが引き起こされる理由も何らかの失敗体験が恐怖体験となり、それがリスクとして記憶されてしまうことによって自律神経に作用してしまいます。
運動選手にとって一番重要なのはリラックスと緊張のバランスをとることです。ここぞという時に力をいれて緊張状態に持っていくためにはその前にしっかりとリラックスしておく必要があるのです。
なのに自律神経にまで作用するような失敗体験はリラックスできる状態を崩し、リラックス状態でなければならないときでも緊張してしまっている状態となってしまいます。
そして、もうひとつ重要なことがあります。
脳の恐怖を司る部位にはなんとその恐怖を増幅するという機能が備わっています。
恐怖を一度リスクがあると判断すると、その恐怖を増幅し、絶対その恐怖を体験しないようにしようとするのです。
もちろん元々のこの機能は生命が生きながらえるための機能だったのですが、生命の危機でもないところでも私たちの心に弊害を生み出すようになってしまっているのです。
イップスというのも、最初に何らかの失敗という原因があったのでしょう。しかし、そんな失敗なんて生命の危機でも何でもないはずです。
なのに、失敗しないように、失敗しないようにと思えば思うほど増幅してしまっていくのです。
ちなみにこの状態が長く続いてしまう状況をトラウマと呼びます。
トラウマになるには何度も何度もその失敗体験や恐怖体験を心の中でイメージします。そしてそのたびごとにその体験は増幅されます。
失敗は一度見るだけで十分、その後は「俺らしくなかったな」と思えば増幅されるような事態にはならないはずなのです。
ということはイップスも同じです。
イップスなんて名前を付ける行為自体がその体験を助長することになります。
どこかの第3者が客観的にみてイップスだどうだということ自体は学問的に意味があるのかもしれませんが、私たちの目的は最高のパフォーマンスを発揮することだけです。
だからイップスなんて言葉は気にする必要は全くありません。
アスリートは様々な失敗をしながら前に進んでいきます。
しかし、その失敗は全てが過去です。
焦点は未来にあてるのです。
過去のことなんて考えているのは時間の無駄。
気づいたことがあることがよいことですが、
よくなかったことを脳に記憶させ増幅させるようなことは絶対にやってはいけないのです。
未来に向けた高いエフィカシーだけあればよい。
藤波選手はもともとべらぼうに高いエフィカシーを備えた存在です。
今の藤波選手は「俺らしくないな」と思ってほしいと思います。
もちろん私も「藤波選手らしくないね」と思ってます。